DATE 2011. 3.24 NO .



「約束」





 一面の黒に点々と散らばる星明かりは、今にも塗り潰されそうに頼りなげなまま。
 変わり映えしない外の景色に、けれど何故か目を離せずにいた。

「――そんなに面白いか?」

 すぐ近くからエッジの声がした。
 いつの間に――というよりは、あたしがぼんやりしてただけ。

 魔導船は本当に不思議な船で、仕組みなんて想像もつかない設備があちこちにある。にも関わらず窓の向こうの景色を眺めてるだけで……どれくらいこうしてたっけ?

「ん、ちょっと考え事」

「考え事?」

 それには答えない、答えられない。
 ただ……不安なんだと思う。

 最後の戦いへの決意が揺らいでるわけじゃない。誰かが死ぬかもしれないとか、あたしの力で大丈夫だろうかとか――そんな風にはっきりしたものじゃなくて、もどかしい。

「……終わらせようね」

 向き直り見上げたエッジは、すごく背が高く見える。
 この漠然とした気持ちの、少しでも答えに近づくものが欲しくて。
 けれどエッジの返事を待つでもなく、あたしは独りで言葉を重ねる。

「今度こそ平和な世界になるように、みんなでがんばらなきゃね。あたしだって……幻獣王様も力を貸してくれるんだし、テラのおじいちゃんには敵わないけどフレアも使えるようになったんだから、あたしは攻撃で、ローザは回復で前線の3人を援護して、あ、エッジは絶対一人で無茶なんかしないでね。……えっと、だから大丈夫で、外は暗いし月の事もまだよくわからないけど――」

「はぁ〜……お前、な」

 自分でもわけがわからなくなってきた頃、エッジが盛大にため息をついた。

「――――」

 続く言葉は、小さすぎて聞き取れない。

「え、今なんて」

 聞き返そうと一歩歩み寄った、その瞬間。

「……っ!?」

 視界に入ったはずのエッジの手を、けれど認識できなかった。
 できたのは、下唇に一瞬触れられた感覚だけ。

 こつん、と歯に当たった後口中に転がり込んだそれは――飴玉?

「口にした言葉には霊力が宿る、ってな。……これも俺んとこだけなのか?」

 甘さが、沁み渡る。

「誰かと共有した方が楽になる時もあるけどよ。お前は何っつーか……固いよな」

「何よ、人が真面目に――」

「真面目だから、」

 遮る声音の力強さと真剣な表情に、驚いて思わず飴玉をこぼしそうになった。

「最初っからそんなご立派なモン掲げてたら、疲れちまうだろ」

 けれどまたすぐに表情は変わって。
 そうだなぁ、とエッジは顎に手をやり、芝居がかった仕草で考え込む。

「平和な世界――を満喫するには、ゼムスの野郎をぶっ飛ばして、全員無事で帰らないとな。で、俺達は充分強いし、チームワークも……まぁそれなりにはある。あとはいつも通りの俺達で挑めば、何も問題ない。お前の場合、『この戦いを終わらせよう』なんてのは、野郎の前に辿り着いてからでも遅くはないんだよ。今は、ほら」

 子供っぽい仕草だとは思いつつも。
 約束だ、と言われるままに、あたし達は小指を絡めて小さな約束を交わす。

「いつも通り、な」

 大きな手から伝わる温かさが、心のもやもやを少しずつ、少しずつ晴らしていった。

「――また子供扱いするんだから」

「いつも通りだろ?」

「……もうっ!」



 小さな一歩を積み重ねて、ここまで来た。

 振り返れば、歩んできた道程がある。
 傍らには、みんながいる。







≪あとがき≫
 高い理想を否定するわけではないんだけれど、一歩ずつ、まずはいつも通り、笑ってくれよ、と。

 エジリディアンソロジー企画からのお客様、いらっしゃいませ。そしてごめんなさい、作品へのコメントが愛想の欠片も無いww
 楽しんでいただければ幸いです。