DATE 2006. 3. 2 NO .
静かな墓地の一角に、フェイトはたたずんでいた。
その後ろ姿にいつもと少し違う寂しい雰囲気を感じて、ソフィアは思わず立ち止まる。
(誰か、知っている人のお墓でもあるのかな?)
出発する時間になっても現れないフェイトを捜していたものの、こんなところで見つけるとは思ってもみなかった。シランドの街外れにある、戦争の犠牲者達が眠るこの場所で。
ソフィア自身その戦争を直接見たわけではない。それでも墓地は広く、真新しい墓石や踏みしだかれた形跡のあまりない下草を見ていると、その傷跡が生々しく浮かび上がる気がした。……まだ、死を見つめられない人もいるのかもしれない。
(フェイトの知り合いが眠っているのならもう少し待とう……)
皆には悪いけれど、決戦の前に、フェイトにも思うところがあるのだろう。
そう思ってソフィアが引き返そうとした時だった。
「ソフィア?」
下草が衣ずれほどの音をたてただけだったが、フェイトがゆっくりと振り向く。
「ごめんね。邪魔しちゃった?」
「いや、もう終わったところだから。…ちょっと来てくれないか?」
フェイトの前には、二つの墓があった。
「フェイトがこの星で知り合った人、だよね?」
「あぁ。ここには、ディオンとアミーナが眠ってる」
墓石に刻まれた名前を指でたどるフェイトの横顔に、ソフィアは先程の後ろ姿と同じモノを感じた。
「ソフィアには二人の話ちゃんとしたことなかったな。……最初にソフィアそっくりのアミーナに出会ったのが、ペターニの街でさ。彼女は不治の病だったんだけれど、それでも幼なじみのディオンにもう一度会いたい、って一心で、パルミラの千本花に願いをかけてた。ペターニではそれだけだったけれど、シランドでディオンに会ってから、僕は何とか二人が再会してほしい、と思うようになった。きっとアミーナの中にソフィアを見てたんだろうな……駄目だって、わかってたはずなのに」
「……」
「再会の時間はとても短かったけれど、ディオンは絶対帰ってくると言ってアミーナの元を去った。戦争が二人の再会を妨げていたけれど、ディオンの命を奪い、結果的にアミーナを死なせたのは――この僕の存在だ」
「フェイト! それは違うよ!! 悪いのは……」
「バンデーンだ、皆がそう言ってくれた。でも僕がいなければバンデーン艦はこんな未開惑星に来やしない。バンデーン艦の攻撃がなかったら、恐らくディオンは生還していた。アミーナも……そうやって考えていくと、とまらなくなるんだ」
「フェイト……」
ソフィアが何も言えなくて黙り込むと、フェイトはその肩を軽く叩く。
「大丈夫。あれからいろいろあったからね。ソフィアがそんな顔することないよ」
「でも……」
「さ、呼びに来てくれたんだろ。皆に怒られるといけないから、早く行こう?」
すっと手が差し出される。それは昔から変わっていない。
「うん。でも絶対怒られるよ。…三十分遅刻だし」
「えっ!? それを早く言ってくれよ!!」
「知ーらないっと」
握った手の大きさは随分変わった。……そして、あたたかい。
階段を駆け上がったところで、フェイトが急に立ち止まった。そして振り返って木々に隠れる墓地を見下ろす。ソフィアもつられて振り返る。
「僕は許せないんだ」
「フェイト?」
「……この世界の営みを壊そうとする奴、僕達をおもちゃにしか見ていない奴が許せない。僕の力は『あいつ』をとめるためにある――今は、そう思うことにしてるんだ」
その横顔に寂しい雰囲気はもうない。
「そうだね。……私とマリアさんの力のことも忘れちゃダメだよ。フェイトは一人じゃないんだからね。それから、皆のことも」
「あぁ」
「ところで、怒ると誰が一番怖いのかな?」
「……え?」
ソフィアは一歩前に踏み出すと、もう一度フェイトの顔を見ていたずらっぽく笑った。
「アルベルさん? ネルさん? ……それとも、マリアさんかな?」
「うっ……」
きっと大丈夫――ソフィアは自分にそう言い聞かせた。どんなに相手が強く大きくても、きっと大丈夫、と。
「先行くよー!」
「あっ、ずるいぞ!」
走り出した先に仲間達の姿が見えてくる。
ソフィアはふと、アミーナに思いを馳せた。
全部終わったら墓前にパルミラという花を供えたいな、とソフィアは思った。
ソフィアは、ディオンもパルミラの千本花に願かけをしていた事を知らないけれど。
≪あとがき≫
ディオンとアミーナが大好きです。二人して死亡フラグを打ち立てて、まぁあざといっちゃそうなんですけど…ディオンが先だとは思ってなかったんで、あの戦争イベントにおいては、フェイトの覚醒と同じくらい印象に残りました。
自分のせいだ、という罪悪感を乗り越えて。ラスボス戦前の台詞とかを聞くと、本当に強くなりましたよね、フェイトは。