DATE 2011. 2.13 NO .



「――クオレ」

 ノックの後声をかけて数秒、すぐに奥の方からぱたぱたと足音が聞こえてくる。

「セオドアっ!」

 足音の途切れる間もない勢いで開いたドアに、自然と口元が綻ぶのを感じながら、セオドアは出て来た少女を抱きとめた。

「久しぶりだね。……元気にしてた?」

「リ…っ、母様も父様も、わたしも、みんな元気だ!」

「そっか」

 まだ少し時間がかかる。
 「母様」はそう語る。

 けれどどうだろう、この自然な笑顔は。
 あの一本調子な声音も、もうほとんど感じられない。

 ――ミスト村で暮らし続けるなら、これで充分なのだ。

「覚える事がいっぱいあって大変だろう?」

 覚える事だけなら、きっと誰よりも優秀なはず。
 本当に大変な事は、彼女にはどうしようもない。

 生まれだけは、どうにもならない――

「そのままでいいんだって」

 そんな思考が、止まる。

「でも、勉強するんだ」

 わたしがそうしたいんだ、と。

 紡がれた言葉の力強さに、止められた思考は再開することなく掻き消えて。
 ただ、その中の懐かしさだけが残る。

「クオレならできるよ、だいじょうぶ……僕に手伝えることはあるかな」
「…! じゃあ教えてほしいところが――」

 出立まではまだ随分時間がある。
 小さな手にひかれて部屋の中へと案内されながら、懐かしさを覚えた自分に、彼は知らず苦笑いを浮かべていた。







≪あとがき≫
 何としてでもアーシュラ無しで攻略したかったのだ…!

 セオドアがどんな過程で葛藤を乗り越えたのか、よく知らんのですが(酷)。
 懐かしいような恥ずかしいような、もみくちゃの苦笑いなイメージです。





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