DATE 2009. 2.14 NO .



「――なぁ、お前はこんなところで何してるんだ?」

 辺り一面真っ暗な場所で、一人の男がおれの前に立っている。
 銀の髪や身に着けている簡素な旅装は似ても似つかないけれど。
 ただ這いつくばるしかないおれを見下ろす顔は――間違いなく「おれ」だ。

「旅をしていたはずだ」

 たび。
 その言葉は、妙に遠く響く。

 カオスの奴らと闘って……それから?
 おれ達は――…

「大事な、旅を」

 ……まけた?

「思い出せ、本当の願いを」

 そこでようやく、「おれ」は膝を折って手をのばす。
 その手がおれの髪を梳き始めた途端、悪寒が走った。

「…っ、触るな!」

 ひんやりした手が、ぼんやりしていたおれの意識を揺り起こす。

「お前が何を言いたいのかはよくわからないけど……今度は負けない。それで、充分だ」

 身を起こすと、案外あっけなく「おれ」の手は離れた。

「相手はめちゃくちゃ強いわけだけどな……それでも皆と一緒に、楽しくやっていくさ」

 おれが立ち上がっても、「おれ」は動かない。
 さっきとは逆に、おれが「おれ」を見下ろす。

 そう、感じた瞬間。

「――ほんとうに?」

 ふいにおれを映していた瞳が紅く染まった気がして、思わず飛び退った。

 しかし着地したと思った足は、柔らかく沈み込む。

「な……ッ!?」

 それも一瞬。
 瞬きの後には闇が晴れて、気づけば目の前に次元城の門が現れていた。
 城を背に、「おれ」はようやく立ち上がる。

「誰のおかげで今! …楽しくやっていけるって?」

 景色が目まぐるしく変わり始めた。
 城内を進み、玉座へ辿り着き、魔法陣の前へと到る。

「皆が、待ってる」

 転移した先は、樹の根が這う仄暗い世界。
 光を求めて、彷徨い続ける。

「お前が助けてくれるのを、皆待ってるんだ」

「……やめろ」

「――お前は最後の最後で、力及ばずに……」

「やめて、くれ……っ」

 やめろと言いながら。
 おれは思い出す。
 花咲く頃のまどろみにも似た、身体にまとわりつく誘いを。
 無の呼び声、を。

「一人ずつ、呑み込まれていった」
「お前は、何とか光を掴んで脱出した」
「けれど皆は、帰ってこられなかった」
「皆をあそこから助け出す方法を探す旅を続けた」
「あの日は、今までの事を聞いてもらおうと思って大森林へ向かう途中」
「なのに、忌々しい呼び声に捕まってしまった」

「――なぁ、お前はこんなところで何してるんだ?」
「大事な旅を、していたはずだ」
「お前にとって一番大事なものは何だ?」
「皆に決まってるだろ? まさかあんな会ったばかりの奴らなんて、言うわけないよな?」

「強い方に味方して、さっさと終わらせるんだ」
「こんなくだらない闘い、関係ない」
「大いなる意思だか何だか知らないけどな」
「実験とやらが一番早く終わる形にもっていって――おさらばだ」

「こんな世界は捨てて、おれ達の世界へ帰るんだ」

 その言葉が――

「息子のおれが親の決意を継いでやらなくてどうするんだよっ!!」

 沈みかけたおれを救い上げたのだと思う。

「親、か。お前の願いはどうなる?」

「今この闘いを捨てたら、きっと皆に怒られる。おれは最後まで――闘い抜くだけだ」

「……お前自身の願いを聞いてるってのにな」

 「おれ」がため息をつき、
 再び周囲に闇が満ちた。

「また会おう。お前を殺してでも、おれは――」

 「おれ」は唇を三日月に歪ませ、嗤う。

「――おれは、諦めない。こんなの、絶対に嫌だ」

 その凄惨な笑みに気をとられている内に、「おれ」は踵を返し、足早に去って行った。


「こんなところで死ぬのだけは、絶対に…!」



 鼓膜を微かに揺らした、かすれた呟きだけを残して。







≪あとがき≫
 まずは一個目、バッツ=クラウザー。
 みえさん曰く、この10題は黒砂糖多めで!← 「入れ替えやっちゃいなよ」って事で、やってみました。
 ――厳密には初っ端から入れ替わってないってどうなの\(^∀^)/
 でもバッツ対バッツにしたかったんだ。みえさんの日記絵のせいなんだ。でも登場しているのは首から上がアナザーな原作バッツさ!←←

 一応、一人帰還EDの途中に喚ばれたというパラレル。先生は……ご不在なんじゃないですかね……





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