DATE 2008. 8.18 NO .



 ふと視線を稽古場の方へ戻すと、子供達のそれとぶつかった。

「御館様、隙だらけー」
「今なら僕らでも勝てそうだったよねー」
「ねー」

 監督についていた人達が、慌てて子供達を黙らせにかかっている。
 けどたぶん、「そういう心配」は要らない。

「…言ったな、お前ら……」

 低く呟きながら、エッジがゆらりと立ち上がる。
 ほら、やっぱり。

「――上等だ」

 エッジの両手には、もう刀が握られていて。
 子供達の方へ歩み寄り、構えた。

「…全員まとめてかかってこいっ!!」

 ただ、開始を告げる声だけは楽しげに。

「御館様が相手してくれるって!!」
「行っくぞー!!」

 一瞬の後、稽古場には子供達の声が響き渡った。

「お前、踏み込みが甘いっ!」
「お前は動きに無駄がありすぎだ!」

「なんだなんだ、全員がかりでその程度なのか!」

 監督の人達も、最初こそその様子をただ眺めているだけだったけれども。

「御館様っ! 我らにもぜひ!」
「お願いいたします!」

「こいつら全員終わったらだ!」

 振り返りざまにまた、一人。

「――お前はもうちょい腕立て、な」

 弾き飛ばした子供を指して、一言告げた。
 それから。

「おい、もう終わりか?」

「だって……」

「――ん?」

 あれだけ積極的に向かってきた子供達が急におとなしくなった事を訝って、エッジが稽古場を見渡す。目の合った子供が指し示した方に視線を移した御館様が見たものは。

「御館様、私どもにも!」
「御館様!」
 城から見ていた人でもいたのか、今度は大人の集団が出来始めていた。大半は若い。でも中にはエッジよりも年上らしき人達もいて。

「あぁ、もう、わかったっ! 全員相手してやるから――こい!!」



 武術の心得はほとんどない私から見ても、エッジの動きが昔と変わっている事くらいは、わかる。
 何というか…スピード一辺倒じゃなくなった、とでも言えばいいんだろうか?


『子供に武器を握らせていいものかって思ったんだが…あいつらには負けたよ』


 セシルに聞いた事がある剣術の型。たぶん、その「型」を意識するような感じ。
 さっきの子供達も、洞窟で生きていくのに精一杯で修練の時間も師も得られなかった「子供達」も。それから、ルビカンテとの戦いでたくさんの友人を失った忍達も。
 皆、エッジが纏め上げてきた。
 皆、エッジの姿を見てきた。


『俺一人が心配するまでもない。エブラーナはこの技を、正しく守っていける…そう、確信させられたからな』

『この忍びの力を――己を律し他を守る力を、残していければと思っている』


 ――エッジの願いは、ちゃんと伝わってるよ。





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