DATE 2008.10.29 NO .
「――帰る前に」
「…どうした?」
立ち去る前に、もう一度、振り返る。
忘れえぬ、あの日を。
「ここで出逢ったんだね、私達」
町の人達が言っていた、ひとりで行ってしまった若様。
道中傷ついて動けずにいる忍達は、誰も彼もその人を想って、「若様をとめて欲しい」と願っていた。
「ああ。――お前は、顔ぐしゃぐしゃにして泣いてたな」
「エッジは、死にかけてたね」
「……まぁ、事実ではあるな」
「私達の来るのが遅かったら、火傷がもとで死んでたね」
「……リディア?」
「いつ死ぬかなんて誰にもわからない。今元気すぎるエッジも、案外私より先に病気や何か事故が起こって死んじゃうのかもしれない。先の事なんて全然わからない、けど……」
走って、走って、ようやく追いついた。
あの時の若様は、いつの間にか落ち着いた御館様になっていて、でも相変わらずなところもあって、再会は空から降ってくるなんて破天荒な有様で、どこか危なっかしいところも時々あって。
「――これからは、ずっと一緒なんだもんね。そう考えたら…もうなんでもいいや」
前を見ながら。
お墓と、瞼裏に残るあの日の光景を見ながら。
今この幸せを、私はただただかみしめる。
「…そうだ、いつか別れる時が来ても、その後も、ずっと一緒だ。約束する……それが、当たり前で、でも一番大切な事だよな」
エッジの大きな手が肩にのせられた。
「――俺、お前を困らせる事言ったよな……すまない」
その手は、あたたかい。
「もう、そんなつもりで言ってるんじゃないんだから! もう忘れたの? 笑顔笑顔!」
とても嬉しかったから。
そんな風に想っていてくれたって知って、それだけで幸せな気持ちになれたから。
「……よし、今度こそ帰るか」
エッジが隣で笑ってくれている。
「うん、帰ろう――」
それだけで、私も、笑っていられる。
「……あ」
「どうしたの、エッジ?」
「お前に明日の段取り説明しなきゃならねぇんだったよ、な……」
「そういえば…! 帰ったらじいやさんに――」
「いや、リディア。それだけはやめてくれ。そんな事したら俺明日睡眠不足決定だから」
「でも……」
「道中で俺が簡潔にまとめて教えてやるって」
「じゃあ万が一失敗したらエッジのせいって事でよろしくね」
「は……? いやそもそも、お前も明らかに忘れてた反応だったよな? ――なぁ、おい、待てよ!」
エッジのお父さん、お母さん。
私は、さっきお話ししたような人間です。
エブラーナの事はまだまだよく理解できていません。
けれど、ずっとエッジの隣にいます。
公私共に支えられるようになるまで、どれだけかかるかはわかりませんが、
お二人を早く安心させられるよう、がんばります。
見ていて下さい。
エッジと私を。
これからの エブラーナを――
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