DATE 2006.10.27 NO .
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「これが、飛空艇……」
リュックに案内されてカモメ団の飛空艇・セルシウスに足を踏み入れたパインは、思わずため息をついてしまった。それは、想像以上の凄さだった。
メンバーを紹介されたあとはどんちゃん騒ぎになる。真夜中になっても甲板の明かりはこうこうと辺りを照らしていた。
(スフィアハンター、か……)
何のためのパーティーかも忘れにぎやかにやっている彼らを見ていると、明日から自分があの輪に入っていく事がとてもおかしく思えてしまう。
(絶対に真実を見つけ出してみせる――)
冷たい風に髪をなびかせながら、何度も何度も、彼女は心の中で繰り返した。
*
ブリッジには誰もいなかった。少し照明が灯っているだけで、昼間のような明るさはどこにも残っていない。
階段の手すりによりかかりながら、パインはしばらくブリッジをじっと眺めていた。自動操縦らしく、誰もいないのに前方の景色はかなりの速さで流れていく。
甲板から何かの音が響いてくる。自分が抜け出したことにはまるで気づいていないようだった。もちろん、寝るつもりもなさそうだ。
パインは、そっと階段を降り始めた。そのまま慎重に進んでブリッジの中央に立った。その瞬間――
『じゃあ、君が操縦士だ。――僕は航法士でもやろうかな』
ふいに懐かしい声が頭に響いてきたかと思うと、後ろの方から靴音がして、誰かがブリッジに入ってきた。
「バラライ……!?」
でてきたのは、あの日からずっと会っていない旧友の一人だった。階段のところから飛び下りたバラライは、緑の上衣をはためかせながらパインの横をすり抜けていく。彼はそのまま、昼間ダチが使っていた場所に座った。
『機関士は俺にまかせとけ!』
「ギップル……!」
勢いよく駆け込んできたのはギップルだ。彼は手すりを滑り下りると、昼間シンラが使っていた場所に座る。
『ヌージは?』
『船長』
『あぁ、向いてそうだ』
いつの間にか自分の姿もあって、アニキの席に座ってバラライと話しているのに気づくと、パインはその光景から目をそらした。
(夢、か……? これが現実であるはすがない……)
『素人に船を任せるとはな』
階段のところにヌージが立っている。呆れたような顔つきで、彼は三人を見下ろしていた。
『心配するなって。黙ってふんぞりかえってりゃ、それらしく見えるからよ』
『ぴったり』
この三人と一緒に空飛ぶ船で世界を回れたら、そうすればいつかあの洞窟のことも、寺院のことも全部わかる日も来るだろうに――、そう思ったこともあった。
『こきつかってやる』
ヌージの言葉に皆が笑い合っている。この光景がまた繰り返されることは、もうないだろう。
今や青年同盟の盟主となったヌージ。そしてバラライは、同盟の最大の敵である新エボン党の若者をまとめているといううわさがある。ギップルも、荒れたジョゼ寺院を本拠として、アルベド族のマキナ派を仕切っているらしい。
ただでさえ彼らの立場が再会を許さないというのに、あの日のことを思えば、到底無理な話だった。
(ヌージが、バラライとギップルと私を撃ったんだ……!)
幸い傷跡が残るほどではなかったけれど、その瞬間はよく夢に見た。
『いつまで撮ってるんだよッ!!』
銃声が轟く。いつのまにか、ブリッジにはまた、誰もいなくなってしまった。
パインは操縦席に座った。
(私は空飛ぶ船にこうして乗っているのに……)
――じゃあ、君が操縦士だ。
(操縦士だけじゃ船は動かないのに……!)
ゆっくりと、ハンドルを握り締める。
込み上げてくる様々な想いに、パインは静かに身を委ねた。
*
「…イン…」
「パイン…」
誰かが呼んでいる。
「パイン!!」
気がつくと、目の前にリュックの姿があった。
「リュック……?」
「抜けるなら言ってくれたらいいのに……。でも、ここじゃ風邪ひくよ?」
どうやら本当に夢だったようだ。手すりにもたれて寝ていたらしい。
「もう寝ちゃう? アニキたちはまだやってるけど……」
「せっかくだし、行くよ」
立ち上がると、リュックの顔がぱあっと明るくなった。
「じゃあ、行こう!」「お、おい!!」
こけそうな勢いで腕をひっぱって走るリュックに、パインはふと、明るい二年前を思い出した。
(もうあんな頃には戻れないのかもしれない……)
ミヘン・セッション前の、連絡船上で笑い合ったあの夜のように。
(でも、真実を見つけることが、皆をつなぐかもしれないから――)
いつか空飛ぶ船で――
≪あとがき≫
とにかく、アカギ3人+パインが書きたかったのです。10−2では前作と雰囲気が一変して(ユウナとかユウナとか)、何か違うような印象も受けたりしました。が、そんな中で置いて行かれてしまったかのようなあのアカギ隊関連のイベント…!
訣別のあの日までの明るい4人も、複雑な四角関係も、どっちもやりたい。…という事で『Reason』があります、はい。