DATE 2010.12.12 NO .
店頭に並ぶ短剣を矯めつ眇めつ眺めているトリスの傍らで、ネスティは小さくため息をつく。
(全く、いつまでかかるんだ……)
ここにいる事は仕方がない。野営の時にたまたまトリスの短剣を見て、そのあまりに酷い刃こぼれぶりに驚き、街に着いたら何が何でも新調させると決めて、今に至るのだから。
だがしかし、遅い。遅すぎる。
この小さな店に迷うほど選択肢があるか?
そんな事を考えながら、陳列棚に目を落とす。
杖の宝玉の類とはまた違う硬質な輝きを手に取ってみても、一体どう扱えばあんな有様に成り果てるのかと、またため息が出そうになる。トリスだから手入れの問題もあるに違いないが、最近の前へ前へと突き進むばかりの戦い方に、背中を見ている自分達がどれほどはらはらさせられているかなんて考えもしないで――
「――ネスも短剣買うの?」
気づけば、トリスがこちらを見ていた。
その手にはまだ、抜身の短剣。
「どうして僕が」
「だよね」
ネスティは持っていた短剣を棚に戻して、財布を渡してやりながら問いかける。
「それより、決めたのか?」
「んー……」
手首を返してくるくると刃を回しながら考え込んでいたかと思うと、
「これにする」
その勢いのまま無造作に鞘に押し込み、トリスはようやく、カウンターの向こうで欠伸を噛み殺していた店員と向き合った。
外で待っていると、トリスは思いの外早く出て来た。
手には布にくるまれた新しい短剣と、ぼろぼろの古い短剣。
「そんな短剣どうするんだ」
荷物になるより、ゴミになるより、二束三文にしかならなくても売った方がましじゃないか。
そんな意味を込めて言ったはずが、トリスから返ってきたのは満面の笑みと。
「ネスにあげる」
――ぼろぼろの短剣。
思わず出してしまった手に置かれたそれは、ネスティの手には幾分小さい。
「実戦に使えない武器をどうし――」
「持っててくれるだけでいい」
ネスティの言葉を遮ってそう言うと、トリスは新しい短剣を取り出し、腰に帯びる。
「悪魔だろうが何だろうが、ネスやアメルのところまでは行かせないんだから」
それは、誰に向けた言葉だったのか――
「……僕やアメルが君をフォローするから、だろう?」
「そうそう」
≪あとがき≫
相手を守る、この一点に関しては見事にすれ違っていると思うのです、ネストリ。
己への戒めとして古い短剣を渡すトリスと、彼女を案じて無意識の内に剣を取るネスティ、という事でお願いします。
……男女間で短剣渡すなんて駄目ですか。
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