DATE 2009. 8. 9 NO .



 例えば目の前に、ピアノがある。
 鍵盤を叩けば――音が出る。

 許された範囲を明確に示すこの楽器が、僕は結構好きだった。



「――どうせ、最後に…滅亡、するなら……」

 情けなくなるほど掠れた声を、遠くに、聞きながら。
 僕はあの日の選択を、噛みしめる。

「……今…壊してしまえばいい、んだ……」

 誰も聞いてなんかいやしない。
 こうして独り最期の時を迎える事にこそ、意味があるのだから。

 預言に定められていたからじゃない。
 ヴァンに乗せられたからでもない。
 僕は自分の手で、この「死」を、選び取る。

 このくだらない世界を壊すために。
 このくだらない、執着を――



 僕の89個目の音。
 君に――届くだろうか。





→next

top