DATE 2008. 7.30 NO .



「――いよいよ明日、かぁ」

 もうしばらくすると、儀式の説明にまた誰かがやってくる。



 エブラーナの文化は独特で、まだわからない事も多い。
 でもこの国の人達は、私を、受け容れてくれた。

 初めてこの国に来る少し前に、セシル達が教えてくれた。
 エブラーナは島国だから他の国とあまり交流がなくて、独自の文化を築き上げた国だ、って。

 閉鎖的なのかと思っていた。
 ミストのような、そんな国なのかと思っていた。

 でもエッジに連れられて「初めて」訪れた、復興を為したエブラーナの人々は――


『やっとお前に見せられた……これが俺の祖国、エブラーナ』


『――いい国だろ?』


 国王夫妻が行方不明になり、城から落ちて洞窟で暮らし、それでも復興を遂げて、バブイルの塔と共に生きてきた国。
 今また平和を得て、国王の帰還に沸き立つ人々を見やりながら、眩しいほどの笑顔で言うエッジ。

 本当に強い国と…王様。



 エッジの言葉は、ただただ嬉しかった。
 私みたいなよそ者で本当にいいのか。ただ傍にいるだけではいけない、いろんな役目が務まるのかどうか……そんな考えも、思い返すだけでバカバカしく思えるほどに。
 喧嘩もたくさんしたけれど、なんだかんだいって、いつも私を元気づけてくれる。

 だからこそ、その直前。あの時の様子が忘れられない。
 昔は明るすぎるほど明るかった、そして今は皆から頼られる、あの落ち着いた耳に心地よい声音が揺れた、あの時。


『――死ぬな』


『お前は、突然いなくなったりするな……!』


 どこからミストの召喚士の寿命の話なんて調べ出したんだろう。
 聞いても結局、教えてくれなかった。



 私の「時間」は、ずれている。
 だから大丈夫なんじゃないかな、と思う事にしている。

 何て説明したのかは、よく覚えていない。
 ただ、エッジが傍にいて欲しいと言ってくれた事。
 私が、その言葉に応えて、今ここにいる事。

 明日から私の生活は大きく変わるだろうけれど。
 その事実だけで、充分すぎるほど――幸せになれるから。



 二人でなら、きっと、大丈夫。





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